前回は、不登校になったときに何をしたら良いかについて掲載しました。今回もまた、現在不登校の状況下にある学生さんを対象に、「不登校を続けたまま引きこもりになり、30歳過ぎまで何もしなかった場合」について掲載しておきましょう。
尚、ここでは、一般的な一つのモデルケースとして、高校中退(或いは、高校進学歴無し)、職歴無し、30歳過ぎの男性を想定しています。これを読んでいるあなた自身がその立場になったとして読んでみて下さい。
注:当コラムについて、30代の方複数からお問い合わせがございましたので、コラム末尾に比較的多いお問い合わせ内容について追記を加えました。まず先に、当コラムで不愉快な気分になられた方がいらしたことを深くお詫び致します。ただ、30代引きこもり当事者の実情については、十分な精査を行った上で掲載しているのと同時に、「大変参考になりました」との意見も多々ございますため、掲載は継続する見込みです。ご了承下さい。
1:引きこもりは基本的に邪魔者扱いです。
社会は、有能な人に対しては優しいですが、無能力者に対しては極めて厳しいです。30過ぎまで引きこもっていたあなたには何の能力もなく、社会全体から無駄飯食いのお荷物と見られています。よって、中年期に差し掛かっているにもかかわらず、親に寄生するだけで全く生産性の無いあなたの存在を、家族や親類でさえ苦々しく感じるようになります。
2:将来性の見込める仕事は事実上存在しません。
お荷物になりたくないと感じたあなたは、仕事をしようと試みるかも知れません。しかし、何らかの得意分野が無い限り、ステップアップや未来のある仕事は存在しません。基本的には、時給900円前後で使われる程度の単純労働しかなく、それさえも、加齢と共に数が減少します。仕事を探し始めたあなたは、自分が社会から必要とされていない現実を少しずつ悟り始めます。
3:引きこもり後の年間所得は平均で50万円程度です。
引きこもりから抜けた後のあなたの年間所得水準は、平均して50万円程度です。しかし、これは平均値であり、本当に何も出来ない人は無職のままで、有職者よりも、無職者の方が圧倒的多数派です。(そのため、中央値はほぼ0です。)地方在住だと更に仕事は少なく、アルバイトすら無いことがあります。ある程度の経験があり、比較的良い条件でも300万円を超えることはほとんど無く、それ以上に行けるのは、あなたが特別な技術の持ち主か、或いは再教育により、高度な資格を保持出来た場合のみです。あなたの家が裕福で、しかも親子関係が良好ならば、大学や専門学校に入り直すなどの選択肢もあるでしょう。しかし、30過ぎでその可能性が残されているのは、極少数です。
参照:不登校 引きこもり の年収事情 ~格差の発生とその原因~
4:職場環境に自然に溶け込める人の割合は1割前後です。
引きこもっていると、対人関係の悪化は顕著になります。仮に仕事が見つかったにしても、挙動に不審さの残る元引きこもり当事者に、安心出来る居場所が提供されるケースは稀です。離職のきっかけとしては、仕事のきつさよりも、居場所の無さの方が深刻です。
5:極めて不安定な就労環境下にいます。
はっきり言ってしまうと、30過ぎるまで何もしてこなかったあなたの労働力的価値は無いに等しいです。雇用者側からすれば、職歴ゼロの引きこもりなど、いつ切り捨てても良い存在であり、それはどこの環境に行っても変わりありません。真面目に仕事をこなすうち、運が良ければ雇用条件が変わることもあるかも知れませんが、基本的には一部の人々のみです。
6:怪我や疾病に対するリスクが非常に大きくなります。
普通の人なら、30代で極度に病気を心配する必要はありませんが、引きこもり当事者の場合には状況も違います。引きこもっていると、体力の減少は想像以上です。環境の厳しい職場しか無い上、金銭的困窮や焦りから、無理を重ねて怪我や病気になるかも知れません。(実際、仕事をし始めたときの怪我の可能性は、決して低くありません。)しかし、そんなあなたに補償をしてくれる会社など、現実的には存在しません。何故なら、あなたはただの捨て駒だからです。
7:親の死や病気が現実味を帯びてきます。
仮に30歳のあなたが長男だとした場合、あなたの親は大体55歳~60歳、次男、三男ならばそれ以上の年齢になっています。そのため、これまでの引きこもり生活を支えてくれた親は定年退職を迎え、所得水準が低下すると同時に、加齢に伴う疾病の可能性が上昇し始めます。この段階にまで来ると経済的問題が発生し始めるため、能力獲得を目的とした再教育の可能性はほぼ完全に失われます。将来性の無い不遇な仕事しかないとしても、親を頼れなくなったあなたはそれを続けざる得ず、生活全体から発生する悲壮感が一段と色濃くなります。
8:身体的劣化が顕著に見え始めます。
全身に及ぶ体力の低下と同時に、肌の荒れや頭髪の減少、肥満など、外見の劣化に伴う焦燥感が激しくなり始めます。20代のうちは「まだ若い」と思えたあなたも、30を過ぎて発生する身体的劣化には焦りを感じるでしょう。劣化は不可逆的に進み、30代も後半になれば、立派に中年の仲間入りを果たしています。しかし、何もしなかったあなたの精神は10代のままであり、「見た目は大人、頭脳は子供」という、不気味かつ不可思議な存在として、社会の中に出ることになります。
9:反社会的行為を試みる可能性が高くなります。
時々、ニュースで引きこもり関連の殺人事件や傷害事件が話題になりますが、現実には、不満や鬱憤を抱え、いつ爆発するとも知れない犯罪予備軍が水面下に大勢います。その多くは、元々反社会的人間だったわけではなく、引きこもりの結果として受け入れ先が消滅し、自暴自棄になったり、突発的な感情の爆発から事件に繋がるケースが大半です。惨めな自分を誤魔化すために、極端な政治思想に染まったり、新興宗教に依存するような例も段階的に増加し、全ての責任を社会になすり付けようとする者も少なくありません。
10:これまでの人生を痛烈に後悔します。
同じ不登校、引きこもり経験者にもかかわらず、社会の中で高い地位に就いたり、高い所得を確保していたり、豊かな人間関係に囲まれて生活している人達の姿が見えてきます。彼らとあなたとの違いは、単に「少し行動が早かったことと、方向性を間違えなかったこと」の二点だけです。それだけで、彼らは笑顔で生活を送り、あなたは苦痛の中で生活を送ることになります。このように、「ほんの少し早く行動しておくだけで、状況が全く別のものになっていた」という現実を、真正面から見せつけられることになりますが、これは、たった一つの青年期を無為に過ごしたために、中年期になって、そのツケを強制的に払わされているだけのことです。その時にあなたが感じることは、
「もっと早くに気付いておくべきだった」
ただそれだけです。
ざっと見渡すだけでも、このような現実が待っており、既に後悔に塗れている人達は大勢います。それを回避するには、
1:極力早く行動すること
2:方向性を間違わないこと
の二点を忘れないことが大切で、これだけもその後は随分違います。
不登校になった後もボサ~ッと生きることのリスク、そして、過去のつまずきを長々と引きずっていることのリスクを、一度しっかり考えておいて下さい。折角の人生なのに、このような惨めな結末を抱えさせられるのは無意味です。
それでは、方向性を間違わないためにはどうしたら良いのでしょうか? しかし、これについては長くなりますので、また改めて掲載することにしましょう。
注:2013年2月上旬より、当コラム他複数のコラムについて幅広くご意見を賜りました。ご意見に対する回答を改めて掲載致しましたので、ご希望の方はそちらもご覧下さい。但し、現実的視点に立脚したご意見が多いことから、長期高齢当事者の方や、その関係者の方、感情的な方の閲覧はお薦めしません。
参照:引きこもり 主張はどこまで 通るのか? ~引きこもりを見る社会の目~
参照:「反対!」と 叫ぶ姿勢に 宝有り ~建設的反対意見を出す能力~
参照:不登校から安定的に大学進学するには?
追記:コラム関連のお問い合わせについて
当コラムに関して、30代の方を中心にいくつかお問い合わせがありましたので、ここで具体的に回答致します。
1:コラムの内容が厳し過ぎると思うのですが
コラムで書かれている実情は、実際に引きこもり当事者の人達が、社会において当たってきた現実を基盤にしています。そのため、意図的に厳しくしているという訳ではなく、当事者サイドからの実態がそのまま出ています。厳しい部分は、実際の社会の厳しさが反映されていると見て頂くのが丁度良いかと思います。
2:コラムは誰が書いているのですか?
執筆関係者は複数おり、それを基盤に編集して、文章に一貫性が出るようにまとめ上げる形になっています。執筆関係者は元引きこもり当事者、或いは、若手の支援関係者が中心です。編集作業は代表が行うことが多いですが、忙しい場合には、元当事者である卒業生に頼むこともありますし、当事者の声をそのまま挙げた方が良い場合には、無編集のままのこともあります。実態はかなりゴチャゴチャです。
以上のように、特に「誰が」というものはありませんが、コラムの基盤となっているのは、引きこもりを経験している「元当事者」です。よって、引きこもり当事者の実情にはかなり近いものと思われます。
3:コラムのデータは何を根拠にしているのですか?
協力してくれる若手支援者、並びに、元引きこもり当事者が、実際の支援現場や、知り合いの当事者の繋がり等、目に見える範囲で調べた結果を基にしています。ただ、これは外に出ることが出来るようになった当事者のみしかデータとして見えませんので、実際の状況はもっと悪いでしょう。
例えば、ここのコラムには、
「3:年間所得は平均で50万円程度です。」
というフレーズがありますが、これは目に見える「外に出てきた当事者」についての話で、実情はもっと少ないはずです。しかし、どの位少ないかまでは分かりません。
4:自分は30代なのですが、もっと当事者に配慮した書き方をして欲しい。これを読んで傷つく人達のことも考えて
申し訳ありませんが、そう考えて、かなりの配慮をした結果です。本当のことを言えば、実態はコラムの内容よりももっと悪いのです。例えば、激しい家庭内暴力の具体事例などは端折っていますが、一応配慮した上で省略しています。
寧ろ、今の高齢引きこもり当事者の状況は、周囲(主に支援側や家庭側)が、当事者に過剰に配慮した結果であるという事実も知っておいて欲しいと思います。現実的危機が迫っているにもかかわらず、正確な状況を伝えず、「まだ大丈夫だよ。心配しないで」のような話を繰り返してきた経緯があるのです。現実は大丈夫でもありませんし、心配して当然の状況です。
実際に社会に出た当事者の方の話を聞いてみれば分かるかと思いますが、基本的に社会は「配慮ゼロ」で迫ってきます。ここは、「配慮ゼロの環境でも生き残れるようになりたい」と望む人々が集まるところですから、「もっと手厚く配慮して欲しい」という場合には、ご覧にならないのが一番良いかと思います。ここで掲載されていることが全てではありませんし、実情を押しつけるつもりもありません。
5:表現が酷すぎる気がします。30過ぎたからって、「邪魔者」とか「反社会的行為」とか「犯罪予備軍」とかは流石にないでしょう?
最初に知っておいて欲しいのは、「当事者本人が感じている自己像と、周囲の人々が感じる引きこもり像とは別物だ」ということです。大半の当事者は反社会性とは無関係ですし、それは確かに事実ですが、当事者本人にそのつもりがなくとも、事情を知らない人達からは「厄介な奴ら」「何考えてるのか分からない危ない連中」のように捉えられることが多いのです。そして、その周囲からの評価が、少しずつ当事者を反社会的な方向へと向わせます。要は、いじめられっ子がクラスの中で浮き上がるのと同じことです。
当事者本人が、自分から積極的に反社会的になるのではありません。「得体の知れない引きこもり当事者」を見て、社会が当事者を反社会的存在として「規定してくる」のです。
また、確かに、まだ余裕のある当事者が犯罪者になることなどあり得ません。ただ、これは「余裕があるから」です。住む家もあり、食事も出来、明日の心配をしなくて済むからです。
しかし、資金も無く、体も弱り、精神的にも追い詰められ、心身共に余裕の無くなった家庭や当事者がどうなるかは、少し考えてみれば分かると思います。引きこもりだから犯罪者なのではありません。「余裕の無さ」が、普通の善人にさえ、反社会性を「植え付ける」のです。
因みに、協力関係者からの話を聞いてみても、偏った政治思想や思い込みの結果、反社会性を持つようになった引きこもり当事者は、今ではそれほど珍しいものではありません。少なくとも、暴力沙汰や誹謗中傷の類は比較的よくある話ですし、それに伴って警察のお世話になる人達もいます。ただ、どれも「余裕の無さ」が原因となっています。
確かに、「長期の引きこもり当事者全員が危険人物」ということはありません。しかし、「本当に一部だけの少数派」という訳でもありません。そう認識して頂くと、丁度実情に合っているかと思います。
6:30代は終わってるのですか?
終わってると言いますか、30歳を過ぎた辺りから社会参加が極端に厳しくなるので、結果的に社会からの要求に応えられず、「終わってしまう」人が少なからずいるのは事実です。本人が頑張っているのは間違いないのでしょうが、年齢の壁は如何ともし難いものがあります。特に、お金の問題と違い、年齢上の問題は皆平等ですから、特定の人々を贔屓することも出来ません。残念ですが、「実情は厳しいので、早めに行動しておいて下さい」としか言えません。
ただ、少数ではありますが、CARPE・FIDEMにも30代から大学の専門系学部へ進学された方もおり、無事に就職もされていますので、ある程度資金的に余裕がある場合は、それもアリかと思います。実行が難しいだけのことで、社会で必要とされる能力が身に付けられるなら、特に問題はありません。
7:30代でキツイなら、40代はどうなるのですか?
一言で言えば、「キツさが増して、受け入れ幅が更に小さくなる」というだけのことです。それ以降も、基本的には同様です。加齢と共に、年齢相応の積み重ねが要求されますので、何もしないのは極めて危険です。
8:30代から社会に出るときは、最初は何に気を付けたら良いでしょうか?
引きこもり期間によりますが、まずは「体力」です。ほとんどの引きこもり経験者が体力の減少を訴えますが、家にずっといるのですから、これは寧ろ自然なことでしょう。
体力確保に気を付けて下さい。体力不足だと、いきなり「怪我」と「病気」の両方から直撃を食らいます。これは事前に回避しておいて下さい。
9:そちらでは30代の人は受け入れていないのですか?
年齢制限は今まで一度も設けていませんので、ご希望でしたらいつでもどうぞ。各自が自分の未来のために勉強してるのであって、年齢関係無しの「アバウトな学習環境」です。
10:勉強したいのですが、お金がありません
程度にもよりますが、CARPE・FIDEMでは、経済的に厳しい家庭でも学習が出来るよう、授業料の減免制度を設けてあります。
確かな意志があり、人格的にも誠実な方なら、家庭の事情に応じて最高で75%まで減免出来ますので、アルバイトをしながら勉強する程度のことは可能です。年齢制限も特にございません。必要でしたらこちらもご利用下さい。
以上です。お問い合わせの中には、「好き勝手なこと言いやがって、ふざけるな!」のようなものもございましたが、その点については大変申し訳なく思っております。ただ、ある程度現実的な話を率直に伝えておかないと、まだ可能性の高い世代すら人生を見失ってしまう可能性があります。反論も多々あることは承知の上ですが、このコラムの内容に助けられている人も大勢いることを鑑み、ご理解頂きたく存じます。
また他にもお問い合わせがありましたら、頻度の高いものを集めて再度掲載致します。ご意見、ご感想をお持ちの方は、今後の運営上の参考意見として頂戴致しますので、お送り頂ければ幸いです。