不登校・引きこもりからの大学進学塾

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寄り添うことの容易と困難

これまた随分昔の話ですが、慶應の理工に行った卒業生の子と一緒にお酒飲んでたときに話していた話題です。誰もが一度は引っかかることでしょうが、ちょっとどこかで参考になるかと思いましたので、昔の記録を頼りに、少し形式(文章形式と時間)を変えて残しておきましょう。

因みに、不登校や引きこもりとは全く関係ありません。悪しからず。

 

 まあ、何だ。君の言いたいことも分からんでもないんだ。ただ、自分の出来ることに限界があると僕は理解してるし、多分現実的にそう。

 だから、彼女の抱える問題に対して、君が具体的に何かの解決策を提示する必要はないと思う。と言うか、そもそも論として、人間抱える状況は実に多様で、生育歴も好みも仕事も全て違う訳で、人が他人の課題に対する具体策を策定するなんて無理がないか?

 仮に助けになることがあったとしても、それは偶然の産物か、或いはそれっぽく聞こえるだけか、単に抱える問題から受けるダメージを緩和してあげているだけかも知れない。まあ、ダメージ緩和は確かに助けになってるかも知れんがね。

 言わんとしていることはだ、君の彼女に対する無力感は、君の能力とは直接的に関連がない。関数になってない。相関性が無いものについて、あれこれ言っても始まらんだろ? それとも何か? 君はそこまで自分が有能だとでも思っているのかね? しかし、それはおこがましいことではないかね? 神かね、君は?

 出来ないことは止めてしまえ。どうせ出来んのだ。第一、それは彼女の問題だろう? 仮に君らが結婚したとして、それでも所詮は他人ですぜ? 同一人物にはなれんのだ。同一性を志向するのは構わんが、それは彼女にとってもお荷物ではないかね、君が。手伝ってるつもりで、実は邪魔。天晴れなことだね。

 君が行うことは簡単だ。単に彼女の近くにいるだけでいいんだ。別に、アレコレ言う必要はない。とりあえず傍にいて、「うんうん、ほうほう」と言ってればいい。これ重要。

 僕を見てみろよ。前にも話したかも知れんが、これまでの彼女全てこっちから告白して付き合うけど、全部相手から振られてるのよ? 

 最初は情熱的に突っ込むけど、だんだん忙しくなって疎遠になるでしょ? で、あるとき、

「仕事と私とどっちが大切なの!?」

 何この複数回のテンプレ? 傍らで「うんうん、ほうほう」をやらなかった結果ですよ。まあ、僕が悪い。

 だからさ、とりあえずそこまで彼女の件で頭使うのやめてさ、とりあえず「いる」ことに徹せればいいじゃない。「いる」って、案外大切よ? 君は認識してないかも知れんけど。

 馬鹿の考え休むに似たり。いや、別に君を煽ってるわけじゃない。要らんことに頭を使うことの愚かしさを言ってるだけさ。頭にはHP(ヒットポイント)があってさ、使い続けてダメージ受けると、活動止まるでしょ? 使うところで使いなさいよ。

 

 ただ、難しい部分もある。「いつ」いるべきか? そして、自分の精神的・経済的余力だ。

 君だって、近く就職だろ? 現実論として、彼女にそんな時間割けんだろ? 必要なときに、君が物理的に動けない可能性もある。彼女が君にいて欲しいときに、君がいられないわけだ。

 同時に、社会人になると、大学以上に磨り減ることも多い。仮に君が彼女の傍らにいたとしても君自身が精神・経済両面で磨耗していては、「うんうん、ほうほう」も出来ない。余裕が無い者同士は容易に破綻するからね。余裕は資産ですよ。

 だから、余力を持った上で、その「いつ」を察するのは、高度な駆け引きだ。自分と社会(会社)との折り合い、自分と彼女との折り合い、そして、過去に蓄積された彼女の傾向。非常にプラクティカルな話だよ。まあ、奥さんの「気まぐれ」に振り回されて、ここ最近失敗続きの僕が言えたクチではないがね。

 君は、彼女にとって常時必要な存在ではない。べったり君の君は否定するかも知れんが、断言出来るね。概して、男はそういう扱いをされるものだが、これは男の宿命だ。お互い、甘んじて受け入れようじゃないか。この話だけで、高校生からご老人まで、年代不問の統合的男子会が出来る位だ。「亭主元気で留守がいい」なんて言葉もあるだろ?

 話を戻そう。つまり、君はピンポイントで「い」ないといけないんだ。そのピンがどこに来るか、そこに頭を使おうじゃないか。頭の使いどころは、つまりここなんだよ。お互いすべき義務があるんだから、馬鹿みたいに彼女のことを考えるんじゃない。それは本当の馬鹿のやることだ。続けてると、二人とも破綻しますぜ? HP切れでな。

 

 君が昔CARPEに来たとき、君は自分の問題を話していたね? 内面の問題。言うなれば、青年期の課題だ。サルトルだとか、キュルケゴールのエリアだろうかね?

 しかし、今の君は他人の問題を話している。外面の問題。中年期の課題、とでも言うのかね? 君はまだ若いが。

 これは大変素晴らしいことだ。内が固まり、それ故、外に挑める。これは、君が大きく成長した証拠であり、誇らしいことだ。自分に余力がある証左だ。絶対的な自信を持ってよいと思うね。

 ただ、これは全く別の世界の話だ。古典力学と量子力学位違う。司っている基本ルールが全く違う。似ている部分もあるが、本質は別と見てよい。

 君は今、自身の内面の問題に対処したのと同じ姿勢で、外面の問題、即ち彼女の問題に対処しようとしている。なるほど、彼女自身は内面の問題を抱えているかも知れんが、それは彼女のものだ。君のものではない。どんなに一緒に考えていたとしても、君は所詮外野なのだ。履き違えてはいけない。そこを履き違えるのは、至って無礼な話だ。無論、彼女に対してな。

 君は君自身の内面の問題をクリアし、成功体験を持っているが、それは最早何の役にも立たない。早々に捨て去り、新しい世界の法則を探求しなくてはならない。今僕が強く言いたいのはこの点だね。自分の過去にしがみ付くのは止めろってことさ。君の内面と、彼女の内面は全く別物なのだから。結局は、彼女に任せるしかない。ただの補助役に徹しろってことだ。その方が君も楽だろうに。

 

 まあ、これだけ言えば分かるだろ? 君は最初から彼女の問題を延々と話していたが、実のところ問題の要諦は君にあるんだよ。いや、彼女の問題に対して、君が悪いと言っているのではない。君がすべきことは、彼女とは別のところにあるってことだ。

 小林秀雄だったか誰だったか忘れたけど、「紛糾しているのは他人ではない。自分だ」とか何とかあったろ? 他者が介在している問題にしても、基本的には自分への課題として跳ね返ってくるのさ。これが分かれば利口。分からないのが馬鹿だ。

 そして、僕らはその自分に跳ね返ってきた課題さえ、全て満足することは出来ない。だから、他者を介在した問題の対処に失敗したとき、我に返ったように嘆くんじゃないかね。「自分がもっとしっかりしていれば」って。違うかね?

 彼女を自分がコントロール出来るだなんて思わないことだ。他人なんて、ほとんど得体の知れない自動操縦機能で動いていて、部分的理解がせいぜいだ。相手だってそう感じている。はっきり言えば、彼女も君にそこまでは期待していないさ。僕も奥さんに期待されてない。心配すんな。

 新しい立ち位置を持ちたまえよ。その立ち位置の法則を学びなさいな。そうすれば、君も彼女との関係に悩まず済むし、結果的には両者共に上手く行くだろうさ。居心地の良い過去の栄光を捨て、素寒貧で泥沼に突っ込んだ方が、人間成長するってことだね。泥沼には泥沼のルールがあるからね。

 因みに、こういった話は君だけじゃなくて、歴史の中で延々と繰り返されてきたテンプレバトルなんだよ。僕の親父もやってましたぜ、お袋相手に。少し前に実家帰って家族全員で集まったけど、今ではほとんど様式美の世界だよ、あれは。芸術と言っても過言ではない。まさに、「家族の肖像」だ。そしてまた、次の世代への受け継がれていく。立派なもんだ。

 そう考えると、少し気が楽にならんか? 君がここに存在している以上、君のご先祖も同じ戦いをしたわけだ。雲の上から、ご先祖全員(男のみ)が君を応援しているわけだ。これは大変心強い。

 まあ、何だ。君的には新しいネタかも知れんが、歴史的には古いネタってことだ。すべての道はローマに通ず。

 と、言うわけで、ここは一つ黙ってローマ流に従っておきましょうや。案外、それも悪くないで?

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